会長挨拶
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会長の挨拶

 みなさん質量分析学はおもしろいですよ.
 2011年5月から2年任期の第19代会長に選ばれました荒川です.大変名誉なことと感じると同時に,今後の日本質量分析学会(MSSJ)の発展を思うと身の引き締まる思いです.今年で設立以来59年目を迎え,学会の還暦はもうすぐ目の前です.このように長い歴史と伝統にはぐくまれたMSSJは我々の誇りです.2012年の秋には3年おきに開催される第19回国際質量分析学会が,ヨーロッパ以外の国では初めて日本質量分析学会の主催により京都で開催されます.このことは前会長,学会委員の皆さんのご尽力のおかげであり,我々は全面的にサポートしていくつもりです.そのためにも事務局,学会委員の皆さんと協力しながら効率のよい学会運営,会員の皆様への情報公開と共有化を図ると共に,会員サービスのさらなる拡充が必要と考えております.安定した学会運営を続けるためには財政基盤がしかりしている必要があります.しかし,この2,3年は社会情勢の影響を受けて広告収入などの減少により,赤字傾向が見られます.本年度は会員数の5%アップを目標に,かつ不必要な無駄を省いて経費の削減に努め,会費および事業収入の健全化を目指したいと思います.これらの取り組むべき課題を挙げさせていただきましたが,会員の皆様のご協力なくしては達成できないことばかりです.これまでにも増してご理解とご協力のほどよろしくお願い申し上げます.


まだ会員でない皆様へ,

 私が学生の頃,家庭の3種の神器といえばテレビ・洗濯機・冷蔵庫でした.それでは,分析機器の3種の神器は何かと言えば,多分,X線解析・NMR・質量分析(MS)の装置と言うことになるでしょう.MSから得られる分子情報はX線解析やNMRに比べて非常に少ないです.極論すると質量情報しか得られません.しかし,2002年に島津のTanakaさんとFennさんがノーベル化学賞を受賞してから,「縁の下の力持ち」であった質量分析がにわかに表舞台に立つようになりました.彼らのイオン化法により,これまで困難であった高分子量の物質のイオン化が容易になり,生体高分子から工業材料までの質量分析が可能になって,MSの応用分野が拡大しました.特に,生命科学の研究における基盤技術としてMSがバイオ研究者に不可欠な機器になりました.この10年間の質量分析の機器開発や応用技術の進歩は,非常に目覚しいものですが,それらのほとんどは外国発のものです.その原因は,大学で「装置つくり」の開発をする研究者が少ないためかもしれません.「装置つくり」は労多くして益の少ない課題と考えられているからかも知れませんが,最近のイオン化法,質量分離部,イオン検出器の技術革新のスピードは以前にも増して速く,異分野から参入される方にとっても宝の山でいっぱいであることに間違いありません.
 質量分析では分子に電荷を持たせて(イオン化という),磁場又は電場の中を運動させます.すると軽い分子イオンほど大きく曲がるので,その曲がり具合から分子の質量を知ることができます.この方法が質量分析(MS)と呼ばれ、もう少ししたら分子1個でも検出可能になると期待されるほど高感度なことが特徴です.また,質量分析は,その分子(正確にはイオン)を実際に捕捉し同定することができるので,新しい物質の発見や検出に非常に都合のよい方法です.私は,化学物質の検証には質量分析が適している意味で「質分検証」と呼んでいます.22Neの同位体の発見や1996年にノーベル化学賞をもらったフラーレンと呼ばれるサッカーボール型炭素分子C60の発見は,まさにMSの威力を見せつけたよい例です.新しい化学種の検出を目指して,学生には常々「化魂物才」を唱えながらマススペクトルを測定するようにと言っております.
 質量分析は大学や研究所の研究目的だけでなく,我々の生活の向上に役に立つ技術としてあらゆる分野で利用されています.最近,日本社会で新聞やテレビに取り上げられる記事に「人への安全・安心」に関するものが多いです.質量分析法は,分析化学の中で特に極微量な物質の定量に威力を発揮する唯一の優れた技術です.そのために,環境,食品,健康分野で広く利用されており,我々の身の回りの安全・安心を脅かす化学物質の規制値が守られていることを評価するのに使われています.例えば,人の血液,尿,涙,汗などに含まれる微量な物質を分析することにより,その人の健康状態を評価できる可能性があります.このように,質量分析を使用するニーズはあらゆる分野で年々増えており,社会人になってから始めてMSの勉強をする方が非常に多いです.日本質量分析学会(MSSJ)では,質量分析講習会,BMSコンファレンス,支部談話会,および各部会を通じて,それらの方に対してお役に立ちたいと思っております.

 現在のMSSJ委員会は二十数名の委員から構成されており,私以外はみなさん若く,豊かな発想力と行動力を持った委員ばかりです.この民主的で自由なMSSJにおいて皆さんも一緒に活動しましょう.
日本質量分析学会会長
関西大学化学生命工学部
荒川 隆一
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