2010年度 同位体比部会研究会報告

同位体比部会長 長尾敬介

 2010年度の質量分析学会同位体比部会研究会は、京都大学・地球熱学研究施設のメンバーの世話で別府鉄輪温泉・山水館を会場として11月17日(水)から19日19(金)まで開催された。90名(一般60名・学生30名:うち質量分析学会員16名)の参加者があり、口頭発表30件とポスター発表38件の研究発表で情報交換や討論が行われた。30名の学生の内訳は、2名が学部4年生、14名が修士課程、13名が博士課程となっており、若い研究者の発表の場として、また広い世代間の交流の場として定着している。質量分析学会員の参加数は、一昨年の13名に比べて増加しており、今後の発展が期待される。
 今年度の特別学術講演は、京都大学・地球熱学研究施設の大沢信二教授(講演タイトル:別府温泉と同位体)、別府大学文学部教授・平尾良光氏(講演タイトル:日本の戦国時代における鉛の流通-鉄砲玉と銀の製錬-)に講演頂いた。大沢教授には、世界的規模である別府温泉の特異性から地殻内部での流体の挙動までを分かりやすく解説していただき、また平尾教授には考古学資料中の鉛同位体比を利用した東亜アジア世界における金属の流通に関する研究の紹介から、最新の発見、さらには考古学の面白さを分かりやすく講演していただいた。予定時間を大幅に超えた質疑討論があり、非常に好評であった。
一般の口頭発表の発表時間は例年通り20または30分間とした。またポスター発表は一件1分間のショートプレゼンテーションと、夕食後の20時から22時30分まで2時間半の討論時間をあてて、深夜まで熱心な意見交換がおこなわれた。いずれも一般の学会発表に比べて長めの発表時間で、発表者と聴衆の双方に好評であった。昨年に引き続き、全発表者を対象とした同位体比部会らしい発表に対する最優秀発表賞を設け、今年は横山哲也さん(東京工業大学大学院理工学研究科・准教授)、学生ポスター発表賞は山田明憲さん(東京大学大学院理学系研究科・D2)、学生口頭発表賞は遠山知亜紀さん(学習院大学自然科学・D2)が受賞した。
 今回の同位体比部会は、いくつかの初めての試みを行った。まず、同位体比部会開始に先がけ、午前中から無機質量分析計の原理と最新の応用を紹介してもらうプレゼミ「Seminar on Nearly Everything on Inorganic Mass Spectrometry」を開催した。6人の講師の方に6種類の無機質量分析計(Noble Gas, IRMS, TIMS, ICPMS, AMS, SIMS)の紹介をしていただいた。参加者が58名にのぼり、盛況であった。またポスター発表のショートプレゼンテーションに初めてビデオレター形式(動画で紹介してもらう)を行い、何人かの学生が従来の型にとらわれない面白い紹介を行った。また学生ポスター発表賞、学生口頭発表賞、最優秀発表賞の受賞者には、優勝カップや楯をプレゼントし、受賞者にとって良い記念になったと思う。
 今回の部会開催では、京都大学大学院地球熱学研究施設のスタッフや学生の方々にご協力いただいたことを記して感謝する。質量分析学会からの研究会開催補助金は、研究会の充実に大いに役立った。次回(2011年度)の研究会は、2002年に韓国済州島で開催された日韓合同研究会に次ぐ第二回合同研究会として、韓国釜山付近で開催されることが承認された。開催の世話は、日本側・田中剛教授(名古屋大学)と韓国側・CHO Moon Sup教授(ソウル国立大学)を代表とするメンバーが協力しておこなう。

日時:2010年11月17日(水)から19日(金)(3日間)
場所:別府鉄輪温泉・山水館
   〒874-0844 大分県別府市鶴見628-1
   電話:0977-66-3211 FAX:0977-66-7607
プログラム:(PDFファイル参照
参加者:90名(一般60名、学生30名)(参加会員16名)
2010年度開催世話人 柴田知之・山本順司・芳川雅子(現地世話人)